「ルーヴル美術館展 ―地中海 四千年のものがたり―」展へ行ってきました!

あの展覧会混んでる?

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「ルーヴル美術館展 ―地中海 四千年のものがたり―」展へ行ってきました。東京都美術館は、9月末までの間金曜日の閉館時間が21時まで延長されているため、仕事終わりに寄ってみることにしました。この時間からの東京都美術館はとても雰囲気が良かったです。普段は17時30分に閉館ですからね。

本展は「地中海」をテーマに、地中海世界の4,000年におよぶ歴史的・空間的な広がりを、200点を超える彫刻、絵画、工芸から読み解こうとするものです。

「地中海」には古代から現代に至るまで、性格を異にするいくつかの歴史的世界が存在してきました。このうち、ギリシャ人とローマ人が歴史の担い手になった古代のそれを「地中海世界」と呼びます。この「地中海世界」は、西洋と東洋をつなぐ要衝として繁栄し、複雑な文化・宗教に紐づく多様な芸術を生み出しました。今回はその「地中海世界」のはじまりから終わりまで、そしてさらに現代に至るまでの約4,000年間のタイムラインをルーヴルの誇る傑作から追うことができる貴重な展示会です。
 

hana chan 注目の作品

 

地中海世界のガラス工芸

 

Skyphos (vase à boire ou à libation) avec anses à poucier, Alexandrie (?), Égypte, 300-200 avant J.-C.

Skyphos (vase à boire ou à libation) avec anses à poucier, Alexandrie (?), Égypte, 300-200 avant J.-C.

《持ち手のついたスキュフォス(酒杯あるいは献酒用杯)》です。エジプトのアレクサンドリアで出土しました。紀元前300-紀元前200年くらいの作品です。鋳造ガラスという技術で製造されています。鋳造ガラスは、型の中に溶解ガラスを流し込んで成型するという技法です。また、エジプトでは溶解したガラス素地を紐状に延ばし、耐火粘土製の芯型に巻きつけて成形、徐冷し、芯型の粘土をくずして取去り中空の器を成型するコア・テクニックという技法も用いられていました。この頃はガラスの溶融が不完全で、泡や不純物も多く、色の種類は紺、、緑、茶、黄、白にほぼ限定され、透明なものが少ないのが特徴です。

 

Coupe à fond plat, décorée de fines côtes en léger relief, Idalion, Chypre , 25 avant J.-C. - 50 après J.-C.

Coupe à fond plat, décorée de fines côtes en léger relief, Idalion, Chypre , 25 avant J.-C. – 50 après J.-C.

こちらは《浅い浮彫による畝状装飾で飾られた平底杯》です。キプロス島中部のイダリオン(Idalion)で出土しました。紀元前25年-紀元50年くらいの作品です。鋳造ガラスの技法とカットの技法が用いられています。ガラスの展示室において、一際美しい虹色の光を放ちながら輝いていました。この虹色の色彩は、「銀化」でしょうか。ローマ・ガラスは数千年間土中に埋まっていると、ガラス表面が化学反応によって極薄の被膜を形成します。この被膜が年月を経ることで多層に形成されると光の干渉によって虹色の光を放つようになります。これは構造色といって、特に着色したわけではないのに多層膜の構造によってこのような美しい色彩が生じるのです。この色彩、注目です。

 

地中海の神々

 

Fragment de statue : tête de satyre, compagnon de Bacchus, dieu du vin et du théâtre, Environs d’Arles, France actuelle 100-150 après J.-C.

Fragment de statue : tête de satyre, compagnon de Bacchus, dieu du vin et du théâtre, Environs d’Arles, France actuelle 100-150 après J.-C.

《彫像断片:酒と演劇の神バッカスの従者サテュロスの頭部》です。フランスのアレラテ(現アルル)で出土しました。100-150年の作品です。アルルといえば、ゴッホを連想してしまいますが、この地は古代ローマ時代、ローマ帝国の属州であったガリア・ナルボネンシスの非常に重要な都市でした。現在では円形闘技場や古代劇場、地下回廊など含め「アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群」として世界遺産に登録されている有名な都市です。

さて、この彫刻のサテュロスは、ギリシア神話に登場する半人半獣の森の精です。ローマ神話にも現れ、ローマの森の精霊ファウヌスやギリシアの牧羊神パーンとしばしば同一視されます。上半身は人で、山羊の下半身を持ちます。頭に小さな角が2本あり、耳は尖っています。陶酔へと誘う酒の神バッカス(デュオニソス)の従者で、酒好きとして知られています。

中世からルネサンス期にかけては、ニンフの水浴を覗いたり、ニンフを追いかけたりと好色的な行為から「色欲」や「野卑」の擬人像として描かれてきました。ニンフは乙女の姿を借りた精霊です。ギリシア語で「花嫁」や「新婦」の意味で、純潔性の象徴であるといえます。バロック期にはサテュロスとニンフが戯れている図が描かれましたが、これは「色欲」が「純潔」を征服するという寓意を表しています。

この彫刻を初めて見たとき、何かに酔ったような恍惚とした表情から色欲が感じられました。彼の属性を知らなくても、それを彫刻で表現できるというのはとても高度な技術であると思います。そもそも、厳格たる古代ローマの征服者たちの彫像が並ぶ中で、この表情はとても浮きます。

Fragment de statue : tête d’Isis, déesse-mère égyptienne, portant un diadème, Rome (?), Italie, 150-250 après J.-C.

Fragment de statue : tête d’Isis, déesse-mère égyptienne, portant un diadème, Rome (?), Italie, 150-250 après J.-C.

こちらは《彫像断片:ディアデマ(宝石入り帯状髪飾り)を冠したエジプトの地母神イシスの頭部》です。出土はローマだそうです。150-250年の作品です。

イシスは古代エジプトの女神で、オシリスの妹にして妻,ホルスの母です。イシスはパピルスや遺跡の壁面などに様々な姿で描かれました。通常玉座を頭上に頂く女性として表されますが、死者の守護女神としてはしばしばハゲワシもしくは有翼の女性として表現され、その翼が生命のいぶきを与えるとされました。また頭に牛の角の間に太陽円盤を持つ女性(女神ハトホルとのアナロジー)として描かれました。時々オシリスのミイラ化した体に鳶として描かれました。

エジプト時代の壁画を参考にする限り、この彫刻の額にある2本の角は牛の角であり、ディアデマ中央の蛇はコブラ(ウアジェト)であると思われます。それにしても一目見ただけではエジプトの神だとは分かりませんね。

 

[参考]有翼のイシス
(頭部に玉座)
Tomb of of Seti I in the Valley of the Kings (KV17), 1360 v. Chr., wikipedia

Tomb of of Seti I in the Valley of the Kings (KV17), 1360 v. Chr., wikipedia

[参考]牛の角の間に太陽円盤を持つイシス
(コブラ:ウアジェトを伴う)
The goddess Isis, Encyclopedia Mythica

The goddess Isis, Encyclopedia Mythica

イシスはエジプト末期王朝時代には様々な女神と習合して、エジプト各地で信仰されました。ギリシア・ローマ時代にはアレクサンドリアの港の守護女神から航海の守護女神となり、女神を宇宙神とする秘儀宗教的な信仰がローマ帝国全体に広まりました。イシスについて調べるうち、神を自分の宗教に取り入れる、同一視するという考え方に驚きました。また、イシスはミネルウァ女神、アフロディーテ女神などとも同一視され、「イシスは千の名を持つ」とも呼ばれるほどです。

地中海世界における多くの民族の相互交流は物的交流だけでなく、こういった信仰の交流ももたらしたということがこの作品から覗えます。

 

Artémis, déesse de la chasse, agrafant le manteau offert par ses fidèles (dite “Diane de Gabies”), Gabies (Italie actuelle), Vers 100 après J.-C.

Artémis, déesse de la chasse, agrafant le manteau offert par ses fidèles (dite “Diane de Gabies”), Gabies (Italie actuelle), Vers 100 après J.-C.

《アルテミス:信奉者たちから贈られたマントを留める狩りの女神》です。18世紀にローマ近郊ギャビー(現オステリア・デル・オーザ)で発掘されたため、「ギャビーのディアナ」と呼ばれます。100年頃の作品で、ルーヴルの傑作の一つです。

アルテミスはギリシア神話に登場する狩猟・純潔の女神です。のちにギリシア神話における月の女神セレネと同一視されます。ローマ時代へ移ると、アルテミスが狩りの女神ディアナと、セレネが月の女神ルナとそれぞれ同一視されます。つまりローマ時代ではアルテミス=セレネ=ディアナ=ルナということですね。

私は小一時間このギャビーのディアナの前から離れられませんでした。よく見てみると照明でキラキラと光る大理石も美しいですし、とても石の彫刻とは思えないくらい柔らかさを感じるマントのドレープなど、感動が止まりませんでした。

衣服は、女神の典型的な短い広い袖の衣服(キトン)とサンダルです。サンダルは高位の身分しか履くことができませんでした。1個のペローネ(ピン、ブローチの類)を用いて肩のあたりで留めています。次に自然に現れるドレープを、2本の紐で整えてあります。女子のキトンは踝丈ですが、狩猟のときは膝上丈にして着ていたことから、この像が狩猟の女神であることを示唆します。

《頭部》
Diane de Gabies, Wikimedia Commons

Diane de Gabies, Wikimedia Commons

 《後肩部》
Diane de Gabies, Wikimedia Commons

Diane de Gabies, Wikimedia Commons

 《サンダル》
Diane de Gabies, Wikimedia Commons

Diane de Gabies, Wikimedia Commons

 

まだまだ紹介しきれない素晴らしい作品がありますが、少しずつ紹介していくとしましょう。所蔵品35,000点以上と言われるルーヴルの展示品を無策に鑑賞しようとすると途中で挫折してしまいそうですが、このようにテーマを決めてセレクトしてくれると理解しやすくて助かります。次はどんな展示が見られるのでしょうか。とても楽しみです。

 

hana chan 注目のポイント

東西の文化が混ざり合うとき、それぞれの神々はどのような変化を辿るのでしょうか。

 

会場 東京都美術館
会期 2013年7月20日(土)~9月23日(月・祝)
開館時間 午前9時30分から午後5時30分まで(入室は閉室30分前まで)
金曜日の開室時間が1時間延長になり、午後9時までとなりました。
休館日 毎週月曜日、※ただし、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開室、9月17日(火)は閉室

 

 

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