「古代ローマ帝国の遺産 栄光の都ローマと悲劇の街ポンペイ」展
ふと、思い出した。2009年9/19~12/13に国立西洋美術館で開催されていたこの展示。
ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの活躍した時代(紀元前1世紀~紀元1世紀)の遺産を展示する。その中に、自分が感動し、それ以降忘れることができなくなったものや、さらに世界に没入するきっかけを作ったものがある。
ローマ帝国の貨幣のひとつ「アウレウス金貨」。実物は息を呑む美しさだ。この金貨、通貨としての役割の他に、皇帝のイメージとメッセージを帝国の民たちに伝えるための新聞のような大きな役割を持っていた。
これはポンペイの居酒屋から出土した、ネロ帝のアウレウス金貨。表には <NERO CAESAR AVG IMP>、裏には <PONTIF MAX TR P VI COS IIII P P> の文字が刻印されている。これを見たとき、刻印されている文字や図像の意味が知りたくて仕方がなくなってしまった。上のネロ帝の金貨の場合は、貨幣発行責任者としての横顔と、称号の刻印のみだが、称号の意味を知るのは非常におもしろい。
まず表面。刻印は <NERO CAESAR AVG IMP> である。
NERO : ネロ(名前)
CAESAR : カエサル(次期元首としての称号)
AVG : Augustus アウグストゥス(尊厳者、皇帝としての称号)
IMP : Imperator インペラトール(ローマ軍の最高司令官)
そして、裏面。刻印は <PONTIF MAX TR P VI COS IIII P P> である。
PONTIF MAX : Pontifex Maximus ポンティフェクス・マクシムス (最高神祇官、ローマの全神官の長)
TR P VI :Tribunicia potestas トゥリブニキアエ・ポテスタティス 6 (護民官職権行使6回)
COS IIII : Consul IIII (執政官当選4回)
P P : Pater Patriae (国家の父)
さらにコインの中心に刻まれている <EXSC> とは何だろうか。正確には EX. S.C. で Ex. Senatus Consulto. の略である。これはラテン語なので、日本語にすると、「元老院令によって」となる。このコインが、競技会の経費を賄うために元老院令によって作られた特定の拠出であることを意味しているらしい。
結局分かったのは、この金貨に書かれている情報は、ネロ帝の称号だけ ということだ。新たな称号を得た記念に発行したのだろうか。この時代、明確に「ローマ皇帝」という職があったわけではなく、様々な官職や権限が一人に集中していただけで、兼任の状態にある者が皇帝とされた。歴代ローマ皇帝は、初代皇帝アウグストゥスの正式名である Imperator Caesar Augustus を自分の名前に付加することで、権限を集中した兼任者(つまり皇帝)が誰であるかを明確にしていた。
この時代はとにかく多くの称号を得ることが君主としての誇りだったのだろうか。ちなみにネロ帝の最終称号は、インペラトール・ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス、ポンティフェクス・マクシムス、トリブニキアエ・ポテスタティスXIV、インペラトールVIII、コンスルV、パーテル・パトリアエ である。もちろん受験では「ネロ」だけでよいので安心してほしい。インペラトールVIIIというのは、なんと凱旋時、民衆から「インペラトール」と歓呼された回数だというのだから驚きだ。
コイン一枚一枚からその人がどんな称号を持っていて、どんなメッセージが込められているのかを理解できるというのはとても楽しいことだ。それも今から二千年以上も前のことなのに。古代ローマだけでなく、ギリシャのコインも面白いので一見してみることをオススメする。
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