ツタンカーメン展 ~青の美学~

あの展覧会混んでる?

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2012年夏、上野の森美術館でツタンカーメン展が開催されていました。王墓からの美しい副葬品の中で、私が最も興味を惹かれたのが「青い」展示品です。一言に青といっても、画像のようにトーンの違いが明瞭です。この深い青。色が均一でないから?透明度があるから?なぜか神秘的な印象を受けるエジプトの青。私の好奇心を満たすためにはとにかく詳しく調査してみる以外無さそうです。

ということで、今回はエジプトの青について詳しく調べてみることにしましょう。

 

1, 青色顔料の歴史


Timeline of blue pigments, http://www.webexhibits.org/pigments/intro/blues.html

 

青色顔料には天然鉱物を使ったものと、その色を真似て人工的に合成して作ったものが存在します。青色顔料で歴史が最も古いのがラピスラズリと呼ばれる鉱物で、その後人口合成顔料としてエジプシャンブルーが作られたといわれています。

 

2, 天然鉱物顔料

 

lapis lazuli, wikipedia

lapis lazuli, wikipedia

ラピスラズリ(lapis lazuli)は、深い青色から藍色の宝石で、しばしば黄鉄鉱の粒を含んで夜空の様な輝きを持ちます。青金石(ラズライト)を主成分とし、エジプトでも紀元前3000年頃から使用されてきました。ラピスラズリはペルシア語の紺碧色を意味する lāzhwardに、ラテン語で石を意味する lapis をつけたものです。日本でも瑠璃(るり)として宝石の一つに数えられ、また群青と呼ぶ青色の高級岩絵具として古来から用いられてきました。

また、青空色~青緑色を表現する鉱石として、トルコ石(turquoise)も知られています。

turquoise, Geology.com

turquoise, Geology.com

トルコ石のパステル色の色合いは古代エジプトで愛され、その歴史は第1王朝まで遡るといわれています。トルコ石は指輪、及び胸飾り(pectorals)と呼ばれる大きな曲線を描くネックレスを飾ってきました。トルコ石は金の中にセットされ、ビーズに加工されたり、象眼として使用されたり、しばしば赤メノウやラピスラズリを伴って、コガネムシ(スカラベ)のモチーフの形に刻まれました。ただしトルコ石の代わりに似た色の鉱石が多く使用されてきたため、見ただけでは判別しづらいところがあります。

 

[参考]有翼のスカラベ
頭部、翅鞘:ラピスラズリ、淡緑:アマゾナイト
本展未展示
An inlaid ornament composed of a winged scarab holding a sun's disc in its forefeet and a 'kha'-sign in its back feet, 12th Dynasty, electrum, cornelian, lapis lazuli, green feldspar, British Museum

An inlaid ornament composed of a winged scarab holding a sun’s disc in its forefeet and a ‘kha’-sign in its back feet, 12th Dynasty, electrum, cornelian, lapis lazuli, green feldspar, British Museum

[参考]人頭の鳥バー(魂)の魔除け
濃青:ラピスラズリ、淡緑:トルコ石
本展未展示
Amulet in the Form of a Ba as Human-Headed Bird, 664 B.C.E. or later. Gold, lapis lazuli, turquoise and steatite, Brooklyn Museum, Charles Edwin Wilbour Fund

Amulet in the Form of a Ba as Human-Headed Bird, 664 B.C.E. or later. Gold, lapis lazuli, turquoise and steatite, Brooklyn Museum, Charles Edwin Wilbour Fund

 

ラピスラズリやトルコ石は希少な鉱石で入手も困難ですし、石ですので加工も難しく、アクセサリーにはめ込む程度が精一杯だったと思います。壺や祭具の表面全体を着色するには新たな技術の開発を待たねばなりません。その後古代エジプト人たちはこれらに代わる人工合成顔料を開発しました。紀元前3000年くらいです。当時の信じられないくらい高い技術力に脱帽です。

 

3, 人工合成顔料

 

①エジプシャンブルー(Egyptian blue)

Blog-Egyptian-Blue

古代エジプトで使われたすべての合成顔料の中で最も有名です。石英(砂漠の砂)、カルシウム(石灰岩)、アルカリ(植物灰、カリ、または砂漠の塩”ナトロン”)、炭酸塩と銅(特にマラカイト:孔雀石)の少量を約900℃に加熱することによって作成されます。入手困難なラピスラズリやトルコ石の代用品として、古代エジプトのガラスや陶器の釉薬に用いられました。この方法によって作られた素材をファイアンス(古代エジプト語チェヘネトtshehenet)と呼びます。

ダークブルーから淡いターコイズブルーへの様々なブルーの色調は、混合物中で銅とアルカリの割合を変えたり、粉砕の程度(粗挽き:ダークブルー、微粉砕:淡青色)を変えることで得られます。

エジプシャンブルーの主成分はカルシウム銅ケイ酸塩であるキュプロリバ鉱(CaCuSi4O10)で、不純物として未反応の石英(SiO2)、含銅珪灰石((CaCu)3(Si3O9))が含まれています。製法には反応温度も非常に重要で、実験では850℃付近では青色だったものが、1050℃まで上昇させると緑色に変化することが示されています。

これには驚きです。彼らは同じ材料でラピスラズリからトルコ石の色まですべてカバーできる神のような方法を考案したのです。この技術はローマ時代の終わり頃まで、ウルトラマリンが開発されるまで使用され続けました。

今回の展示品をダークブルーからターコイズブルーへの変化が分かるように並び替えるとこの画像のようになります。

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本当に美しいですね。特に右から3番目の「儀式用水差し(ヘセト容器)」は上から下へのグラデーションが息をのむ美しさです。これらの青いファイアンスには古代エジプト人の深い意味が込められています。エジプト学の専門家である西村洋子氏の文章(原文はこちら)を引用しましょう。

質問97. 青いファイアンスはとても素敵ですが、古代エジプト人はどうして青色が好きなのですか?

それは水の色だからです。この場合水は生命を生み出す原初の水ヌンのことです。原初の水の中では神の霊が泳いでいて、あるとき具体的な姿形を取って原初の丘の上に現れ、この世界を創造しました。このとき人間や動植物、その他の生き物も一緒に創造されました。だから、青色は生命の限りない誕生を象徴しています。(中略)

またラピスラズリから作られる濃い青色は夜空を表しています。夜空は冥界でもあります。夜の間太陽神ラーは空の女神ヌートの体内あるいは冥界を進んだ後、翌朝新たに生まれて出現し、この世界を光で満たします。このとき死者たちも新しい生命を得て復活します。だから、濃い青色は死からの再生復活を象徴しています。

 

深いですね…。ラピスラズリの濃青が冥界を表すのだとしたら、それは死のみを象徴している気がするのですが、どうでしょうか。それが太陽とともに描かれたとき、初めて生という意味を持つような気がします。皆さんはどのようにお考えでしょうか。

 

②アマルナブルー

 

'Amarna Blue: Understanding the Pottery at Gurob', by Anna Garnett

‘Amarna Blue: Understanding the Pottery at Gurob’, by Anna Garnett

古代エジプト第18王朝と第19王朝でのみ使用されていた人工合成顔料です。水色に近い柔らかな色合いをしています。三千年以上に及ぶ古代エジプトの歴史の中でわずか百年ほどしか使われなかったとされ、作り方や成分もわからず、「幻の青」といわれていました。

アマルナといえば、古代エジプト第18王朝アメンホテプ4世の治世の時代です。彼の治世4年目(前1368年ごろ)にアテン神に捧げる新都アケト・アテン(現テル・エル・アマルナ)を建設。王朝発祥の地テーベを放棄し、遷都したというのは有名な歴史です。

この時代は、これまでの伝統(芸術、壁画、彫像、建築)を否定し、それに代わる新たな手法の試行錯誤を行った時期でもあります。その中に、青色の扱いも含まれていたのではないでしょうか。

 

Blue-painted pot, From Tell el-Amarna, Egypt, 18th Dynasty, around 1300 BC, British Museum

Blue-painted pot, From Tell el-Amarna, Egypt, 18th Dynasty, around 1300 BC, British Museum

ちなみにこのアマルナブルーは2002年に早稲田大学のグループが構造と組成を決定しました。 CaSO4 (白色) と Co(M)Al2O4 (深い青) の混合物で、金属M には Mn, Fe, Ni, Zn が含まれていることが分かっています。エジプシャンブルーは銅が主成分となっていたわけですが、アマルナブルーには銅が含まれていません。つまりこれまで使われていた原料の鉱石を使用せず、またしても新たな方法を考案したということになります。

 

 

私は青が一番好きですが、古代エジプトの宝を見て、青の多様さ、深さに驚きました。そして、また展示品を見に行きたくなってしまいました。今度は「青」を新たな視点で捉えることができると思います。

 

 

 

■管理人 hana chan の評価

作品の充実度
満足度
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静寂度
雰囲気

 

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■この美術展、行きたい?

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